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「大丈夫…?ひよりちゃん」
「ちょっと退いて!」
「えっ、あ、」
助けて、心配したのに…何故かすごく怒鳴られて突き飛ばされた。ひよりちゃんは格好は女の子なのに、やっぱり男だ。力が強い。
一瞬固まっちゃったけど、俺がここに来た理由を思い返してふと我に返った。喧嘩を止めないと。
急いで立ちあがって、ひよりちゃんの向かった方を見ると、そこには物凄い形相で胸倉を掴んでる吉野くんの姿があった。
ひよりちゃんは、傍らで泣いている女の子を守るように抱きしめて…吉野くんが相手にしている男を睨んでいる。
「吉野くん…!」
名前を呼んでも、見向きもしない。それどころか、男に顔を近付けて…何か話している。周りに居る野次馬の声でかき消されて聞こえないけれど。
とにかく、男が何かしたのは明白だ。ひよりちゃんが突き飛ばされて、しかも女の子が泣いている。吉野くんが怒ってる。
「吉野くん、落ち着いて…!」
急いで2人を引きはがそうと間に入ると、なんだよてめぇ。って男に睨まれた。
こいつ、見たことある。
確か…1つ年下の、不良。よく先生と追いかけっこしてるのとか、あちこちで喧嘩してるのを見かけてた。
「喧嘩は良くないよ。何があったのかは知らないけど、話し合いで解決しよ?ほら、こんなに人も集まっちゃってるしさ」
「誰かと思えば有名な王子様じゃありませんか…。喧嘩の仲裁までするなんて…さすが、皆の憧れなだけありますねぇ?」
下卑た笑みを浮かべながら、思っていないであろう言葉を俺に投げかけるこいつは、下唇をペロリと舐めた。
俺を品定めするような、そんな顔だ。
「センパイは引っ込んでて下さい。これは、僕の問題ですから」
「おうおう吉野…せっかく王子様が助けに来てくれてんのに断んのかぁ?お前じゃ俺に勝てねぇだろ」
良く見れば、吉野くんの顔には殴られた痣がある。見ているだけで、どの程度の強さで殴られたのか想像出来るくらいの、薄っすらと血が滲む青痣。
こいつに殴られたんだろう。
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