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「お前、毎回ひよりちゃんに突っかかって…何なんだよ」
「は?あいつが俺に突っかかって来てんだよ。勘違いすんなよそこ。なぁ?」
吉野くんに胸ぐらを掴まれているのに、それでも余裕な男は…人を小馬鹿にしたような話し方。
自分の腕に自信があるんだろう。
男の後ろには、更に2人。仲間だろう…話しかけられて、そうだなって笑ってる。
3人か…。それくらいなら、俺でも力ずくで良ければ余裕で相手出来るけど。
どうしよう。爽やかを捨てるか…?
でも、野次馬の中には女の子も居る。そう、俺の大好きな女の子。
いつ吉野くんが手を上げるか分からない状況で、どうしようかと必死に考えを巡らせていると
「お前もさぁ…何であんな奴と仲良しごっこしてんの?気持ち悪くねーの?あんな…女装趣味」
そう、男が言った。
女装趣味。それはひよりちゃんを指して言った言葉。吉野くんの大好きな、ひよりちゃんをバカにした言葉。
「てめぇ…!」
「ダメだよ吉野くん!」
男の言葉に、吉野くんはとうとう手を出してしまった。大きく振り上げられた拳に、俺は急いで間に入る。
大切な人をバカにするような事を言われて怒るのは分かるけど…それで自分も手を出したら、こいつと同じだ。
「いって…!」
「伊織!」
防御するのも忘れて、止めなきゃって一心で間に入ると
綺麗なストレート…これでもかってくらい、綺麗なパンチが頬に当たった。痛い…。
そこに、野次馬を掻き分けて入ってきた奏が目に入ったけど、痛すぎて返事出来ないです…。
「伊織…!おい、大丈夫か!?」
「な、なんとか…」
「す…すみません市川センパイ!」
喧嘩もここ2年くらいしてなかったし…久しぶりの感覚。パンチってこんなに痛かったっけ。
吉野くんに怒りの矛先を向けようとする奏を宥めていると、頬を押さえて蹲(うずくま)る俺の背中をゲシゲシと蹴られた。
「大丈夫ですか…王子様?」
「……………」
せっかく止めに入ったのに、綺麗な顔が台無しですよ?なんて、俺を蹴る男。
「お前…」
「ダメだよ奏。ここで手を出しちゃダメだ。今は耐えて」
奏めっちゃ怒ってる。いや、俺も中学生だったらね、後悔じゃ足りないくらいの気持ちを味合わせてやるんだけど。
爽やかの壁は大きいよね。
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