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「あ、あの…センパイ」
「なに。お前まだ居たの?」
「は、はい!すみません…」
ぐったりと項垂れながら、手荷物を持って部屋を出て行こうとする吉野の後ろ姿。
「お前、伊織の服を捲り上げただけか?他に手は出してないだろうな」
そう言うと、ビクッと体を震わせた。分かり易い奴だな、こいつ。
「き、きす…してしまいました」
しかも、素直な奴だ。俺の行動を見ていれば、1番バレちゃいけない奴だって分かるはずなのに…それでも素直に告白してくるなんてな。
馬鹿正直とは、このことか。
一歩前に足を踏み出せば、また俺に殴られるとでも思ったのか…ビクビクしながらも身構える。
「安心しろ。もう殴らない」
「え…」
「なんだ、殴られたいのか」
「いえ!滅相もない!」
ブンブン勢い良く首を振る吉野に、思わず笑ってしまった。バカなところは伊織に似たものがあるな。
「でも、まあ…次は無いと思え」
今回は許してやる。そう言えば、もうしません!とペコペコ頭を下げた。
「ああ…あと、お前の大好きなひよりちゃんとやらに言っておけ。弱味を握るのは構わないが、身分をわきまえろってな」
「え…?あ、はい」
黒中の事を知ってるってことは、俺のことも知ってるはずだ。
伊織はイジメを止めに入ってやったんだ。それなら大人しく守られてろ。
「ひよりってのは本名か?」
「はい!伊藤ひより。女みたいな名前を嫌がってましたけど…今となっては都合良いって笑ってましたよ!」
伊藤。そうか、どうりで。
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