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そんな俺の睡魔をぶっ飛ばしてくれたのは、気合いが入ったからでもなく、緊張感でもなく…。
奏によるものだった。
「伊織、好きだ。俺と付き合ってくれ」
劇が始まり、幕が開き…最初のシーン。
短い劇だけど、この劇の始まりは友達同士からだった…はず。うん、俺の記憶が正しければ。
奏が俺を好きだなんてこと知らなくて、ただただ普通の会話をするシーンだったはずなのに。
「何してんだよ…!いきなりキスっておかしくないですか…!?」
セリフには無い言葉を全力で叫んでしまった俺は、そのまま固まった。
睡魔が飛んで行ったのはこの所為だ。なんで幕が開いてすぐにキスしちゃうかなぁ…!?
どうすんのよこれ。こっからのストーリーどうすればいいんだよ。
しかも観客も超静かなんですけど。この空気が冷たい。痛い。辛い。死にたい。
「突然ごめん。伊織が可愛くて…つい。でも、この気持ちは本当だから」
俺にも負けない爽やかな笑みを浮かべた奏に一瞬頭がスパークリングしそうになったけど…このセリフ、そういえばあった。
もう少し後にするはずのシーン。
奏が俺に告白するシーンが…なんとも、まぁ。まさか序盤に持って来るとは…。
「本気…?」
「本気」
「ちょっと、ごめん。考えさせて」
そう言葉を返すと、舞台が暗転した。
その瞬間、奏に腕を引っ張られて舞台袖まで連れられて。
「どうだ…?目、覚めたか?」
「何笑ってんだよ。覚めましたよ。しっかり覚醒しましたよ。ふざけんなですよコラ」
「話は後。ほら、次のシーンだぞ」
無理やりまた舞台に突き飛ばされた。あいつ逃げやがったなちくしょう…。
後でフルボッコだ。
「センパイ…どうしたんですか。泣きそうな顔してますよ…?」
ちくしょう。何で吉野くんまで全く違う言葉を投げかけて来るんでしょうか。
泣きそうになんかなってねぇし!
これは汗だよ!!
………汗だと誰か言って下さい。
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