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先輩から借りた鍵で、部屋に入った。
綺麗な部屋。俺の部屋とは大違いだ。
「おい、靴脱げ」
玄関で立ち止まって声をかけても吉野は返事すらしなかった。起きてる。ただそれだけ。
仕方なく脱がせてソファまで運んでやった。そのまま項垂れるこいつに、どうやって慰めてやったらいいのか分からない。
先輩達が戻ってくるまでに正気に戻さないと、晩飯を食いそびれる。
「おい知ってるか。先輩の飯、うまいぞ」
前に先輩の弁当をつまみ食いしたのを思い出して話しかけてみたけど、やっぱり返事がない。
「失恋しただけで、そんなに落ち込むもんなのか。そんだけ好きだったって事なのか」
無視。
「あいつ、喧嘩強かったな。お前がいちいち守りに来る必要もなかったな」
無視。
「聞こえてんのか」
無視。
こんなもん、俺みたいな友達でもない奴が聞いたところで答えるわけないか。会った時は喧嘩以外してなかったし。
喧嘩の弱いこいつをおびき出すために、何であいつらがわざわざ伊藤をイジメてたのかも俺には意味不明だった。
あいつらは楽しかったみたいだけど、俺にそんな趣味はない。
「多分もう、あいつらは伊藤には絡まないから安心しろ」
自分より強い奴に挑むのが楽しいのに、あいつらはそれをしないから。先輩には弱味に付け込んで遊んでたみたいだけど。
「皆、執着出来る人間がいるって良いよな」
俺は喧嘩以外ないから。そうやっていろんなことを思える相手が居るのは少しだけ羨ましい。
女の好みはあるけど、だからといって女を好きになったことも無い俺が吉野を慰めれるとは思えない。
こういうのは、気持ちの分かり合える奴が慰め役になるんじゃねえの?
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