1993人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあ、返事くらいしろよ」
無視。
ってか、こいつに聞こえてんのかどうかも怪しくなってきた。目開けながら寝てんじゃねえの。
「起きろ。寝てんじゃねえよ」
思いっきり揺さぶってみた。でも起きない。軽くビンタしてみた。起きない。
まばたきをした。起きてる。
「…起きてんのかよ」
人を慰めるって、どうすればいいんだ。友達を…友達が慰めていたのは見た事がある。何を言ってたっけ。
…興味なかったから聞いてなかった。失敗した。ちゃんと聞いておけば良かった。
「お前の気持ちは分かんねえ。かけてやれる言葉も見つからない。悪いな」
だから友達がやってたように、吉野を抱きしめて頭を撫でた。どのくらいの強さで抱きしめてたんだろう。こういうのは強い方がいいのか…?
撫でるのは、優しい方がいいよな。
「何か喋れよ。俺にはお前が何を思ってんのか分からない。でも、元気になってもらわないと困る」
そのまま黙った。もう本当に何を言ったらいいのか分からない。先輩のご飯は諦めるか。
そう思った時、肩が濡れてる感じがした。
「……っ」
声にならない声も聞こえた。
なんだ、泣いてんのか。人形みたいに動かないよりはマシだな。
人を慰めるには、抱きしめた方が良いのか。これから先永遠に役に立たなさそうな知識だなこれ。
「失恋って、そんなに悲しいのか」
「………うるさい」
聞いたら怒られた。
でも、そう言いながら…俺の腰に手を回してくる。
なんだよ…こいつ男のくせにハッキリしない野郎だな。恋愛ってのがそんなにも悲しいならしなけりゃ良いのに。
「失恋したのが…悲しいんじゃない」
「は?」
突然話し出した吉野。じゃあ何で泣いてんだよ。ひよりちゃんひよりちゃんって、虫みたいに回りにいたくせに。
もう側に居られなくなるのが辛いんじゃないの。
「ずっと側にいたのに…何も知らなかった…教えてももらえなかった…恋人にはなれなくても。それでも友達くらいに思って…もらえてるかな、って…。全部…俺の勘違いだった」
「……」
「側にいたのは、俺だけ…だった。ひよりちゃんは、遠くにいたのに。俺は分かって…なかった…」
そう言って。今度は圧し殺すことなくガキみたいに泣き始めた吉野に、ますます掛けてやる言葉が分からなくなった。
吉野が強く抱きしめてきて肩を濡らすから。
最初のコメントを投稿しよう!