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その場で呆けていると、奏が戻ってきた。
「食べるぞ」
マジで何も無かったかのように、座って手を合わせると黙々と食べ始める。
マジか。そういうことね。なら、俺だって何も無かったと思い込んでやるからな!?忘れてやるからな!
「いただきます」
俺も朝飯を食べ始める。朝だし眠いし、たいして凝ったものは作っていないけど、俺の作る飯って何でこんなにも美味いんだろう。
いつかイクメンの称号を頂こう。
子育てもたっぷりして、パパ大好きー!なんて抱きついてくる娘を抱っこして頬ずりするんだ。
「伊織。妄想が顔に出てる」
「……さーせん」
ニヤけてるのくらい見過ごしてくれよ。
なんて会話をしながら箸をすすめていると、インターホンが鳴った。橘だ。
ドアを開けてやって招き入れると、後ろには何故か吉野くんが。
「おはようございます…」
「連れてきた。いいだろ?」
謙虚に挨拶する吉野くんとは違って、橘はなんとも我が物顔でズカズカと部屋に入ってくる。
え、ちょっと待って。吉野くんの朝ごはんまでは作っていないんですけど。
「ごめん吉野くん、ちょっとまってね」
特に時間のかかるもんでもないし、皆と同じ朝食を作ってあげた。
途中まで食した俺の朝ごはんはもうカピカピだ。冷めても美味しいのが俺のご飯だから良いけど。
「すみません、ありがとうございます…」
「ううん。気にしなくていいよ。ご飯は皆で食べる方が美味しいしね」
早々に食べ終わった奏は食器を片付けて服を着替えに行くと言って部屋を出ていった。
その間も吉野くんがこっちをチラチラ見ながら遠慮がちにご飯を食べるもんだから、何か食べづらい。
「俺の顔に何か付いてるかな…?」
「あ、いえ、その…あの」
聞くとテンパるし。昨日の事があって、ちょっと恥ずかしいのかな。
しかも犬猿の仲だった橘と一緒にここへ来たわけだし。
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