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嫌な夢を見た。
どこかの埃っぽい工場みたいな所にいて、不良の溜まり場みたいに…10人くらいの不良がいて。
奏が少し離れた所にいるんだけど、俺に向かって何か叫んでいるのに聞こえない。しかも、奏が動けないように、後ろから数人の男に羽交い締めにされてた。
俺の目の前にいるのは、モヤモヤしてて…顔の見えない男。
ただ、笑ってるのだけは分かる。
俺はそいつに何か言おうとするんだけど、声が出なくて伝わらなくて…ドロドロと溢れてくる黒い感情だけが自分を支配していた。
怖くて、体が震えて、今すぐにでもそこから逃げ出したいのに…縫い付けられたらように足が動かない。
『伊織…!』
最後、奏が悲痛な声で叫んだのが聞こえて…
目が覚めると目の前に奏がいた。
「おはよう伊織」
「あれ…俺、寝坊した?」
「大丈夫。まだ6時だから」
珍しい。奏が俺より早く起きるなんて。
朝ごはんの時も、寝起きMAXの状態で食べに来てたくらいなのに。
「伊織、何か夢見てた?」
「見てた…かなぁ?見てた気がするけど、何も思い出せない」
「…そう」
「うなされてた?」
「いや、笑ってた」
「なにそれ怖っ…」
「嘘だよ」
何の嘘なんだよ。
奏はどこか哀しそうな顔で俺を見つめた。
その理由は分かる。けど、知らないフリをした。その方が奏を心配させずに済むから。
夢にまで出てくるなんて…重症か?
きっと一生忘れることなんて出来ない数年前の記憶が、いつまでも俺について回ってくる。
「顔洗ってくるね」
「俺も」
「別にいいけど…何で?」
「なんとなく」
そんなに広くない洗面所に大の男2人って…狭いんだけど。
まだ不安なのか、俺が歯磨きしてても顔を洗ってても奏は隣を離れなかった。
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