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「頼む…出ろ、出ろ、出ろ」
今見た光景は嘘だと、拓海の携帯に電話してみてもコール音が鳴るだけで、それに出てくれる気配はない。
切った携帯を見つめながら、誰かに狙われてるらしいことを言っていたのを思い出す。
"もし、俺にまたあの時と同じような事が起きたら…助けてくれる?"
そして俺の頭に浮かんだのは、そう言って困った顔を浮かべた拓海の顔。
今がその時なんじゃないのか?いつも飄々としてる拓海が、あんな顔をするのは珍しかった。
俺も行かなきゃ。そう思ってもどこへ向かえばいいのか分からない。去った方向へ走ってみても、車相手に追いつくわけがなく。
どこへ連れ去られたのかすら皆目検討がつかない。そんな状況で焦る俺を助けるように携帯が鳴った。
『伊織。迎えに来たんだけど、何処行ってんの』
「かなで…!拓海が、拓海が…」
『今どこだ』
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『どした?なに、初電話の内容が今日が待ち遠しくて早くしろって?仕方ねーな!早めようか?』
「今日は中止だ。今すぐ拓海の居場所探して住所送れ」
『…マジなやつ?深刻?』
「いいから急げ」
返事を聞くことなく電話を切った。
電車をただ待つことしか出来ない自分がもどかしい。どうしていつも側にいるのに、少し目を離した隙に何かあるんだ。
今日だって、単独行動出来ないように早めに来たのに…それより先に動いてる。1人になったら必ず何かに巻き込まれてるって自覚は無いのか?
それに、俺以外の奴が伊織の心を揺らすことにすら腹が立つ。伊織を守りたいのに…それを妨害されてるようで。
『かなで…!』
悲痛に叫ぶ声はいつも俺を呼ぶ。その声を聞くと胸が締め付けられて頭がおかしくなりそうだ。
何より、出来ることが少ない俺自身にも腹立たしい。
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