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もどかしい気持ちで電車から降り、駅を出るとすぐそこに伊織がいた。待っている伊織も、不安だったんだろう。
駅の壁を背にしてうずくまるように座ってた。
「伊織、おいで。もう大丈夫だから」
「…奏、拓海が」
「うん。分かってる。行こうか」
本当は伊織に危険な真似はさせたくない。伊織が不安なら、俺が動いてあげるのに。
でも今回は場所が分からないから素直に待ってくれたようだけど…分かってれば俺を待たずに一人で行ったはずだ。
今回は奇跡だなと呆れつつ。携帯を見ると、裕翔から住所のメッセージが入っていた。さすが、早い。裕翔達も向かってるようだ。
ここからは電車に乗るまでもなく、歩いて行ける距離。
「拓海の場所が分かった。いいか伊織、無理はするなよ」
「分かった」
本当に分かったのか…?
今度は俺が不安になりつつ、教えられた場所へ向かうと、そこは市内に所狭しと立ち並ぶビルの一角。とある会社の社ビルだった。
何階かまでは分からないし、聞いたって誰も教えてくれないだろう。
だけど、攫った奴は馬鹿なのか…明らかに挙動不審な奴がフロアの奥から出てきた。何度も出てきた扉を振り返り、キョロキョロと辺りを見回す不審な男が。
「オジサン。あの奥の部屋、何があるの」
「き、君たちは…」
「居たでしょ。俺たちと同じ年くらいの奴」
「わ、私は何も、何も見て無い…」
「ここでオヤジ狩りに遭いたくなかったら言って」
「ひっ…」
ああもう焦れったい。おっさんに焦らされてもムカつくだけなのに。試しに拳を目の前にやると、またひぃと悲鳴を上げてコクコクと頷いた。
口止めでもされてるのか、それでもこいつ相手だと意味がなかったようで、こっちからするとありがたい。
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