ふゆやすみ

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重症には至らないものの、倒れてる奴らと、既に戦意喪失した奴らを背に帰ることにした。 何か吐かせることもなく。これが誰の差し金なのかも全て分かってるらしい。それが分かっていながら拉致られるのもどうかと思うが、助かったから何でも良いと、拓海は能天気に考えてるようだ。 でも、どこまでも詰めが甘いというか。 今ここに倒れてるのが、普通の世界で生きる人間とは少し違うということを忘れていた。 特に俺と伊織は、緊張しながら来たものの…最後にはいつもと同じ喧嘩のように思ってたかもしれない。終わったら、もう何もして来ないものだと。 そんな甘い奴らじゃないって、考えればすぐ分かるのに。 拓海がドアに手をかけ、ここから出ようとしていたまさにその瞬間、倒れていた一人が起き上がった。 「伊織…っ、」 その手に持っているのを見て、咄嗟に庇おうとした。伊織を助けないと、と。それに伊織も気付いたのか…何故か俺を見て笑った気がした。 伊織に伸ばす手は意図的に弾かれ、代わりに抱きしめられる。 そして聞こえたのは、バンという無機質で大きな銃声。飛び散る血と、俺を抱き締める手を弱めながら…その場に崩れていく伊織が見えた。 これは夢であって欲しいと瞬時に願うけれど、夢でないことくらいは、焦る俺にも分かる。 「い、伊織…いおり、伊織…っ!」 「っはは…いつもの、おかえし…」 相手を見ると、もう既に拓海達がそいつの元に向かっていた。その視線にも入るくらい流れ出た伊織の血に、頭が真っ白になる。 救急車を呼ぼうと思うのに、手が震えてダイヤルどころか画面のロックの解除も出来ない。早く呼ばないとと思うのに、焦りも加わって余計に上手く出来なかった。
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