ふゆやすみ

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拓海と同じように、俺も家族を隠してた。 極力、知られないように。世間に褒められる家じゃないから。褒められるどころか…潰されるような家柄。 親父は指定暴力団の幹部だった。 皆、何も言わないけど知ってる。この辺りでは有名な事だった。俺の家がそうだってことは。 家族は抜けられない穴に入ったからか、俺にはそこから抜けろと言ってはいたけれど、世間の風当たりは冷たかった。 関わらず、いないように扱う。 俺は空気と変わらない扱いだった。いや、空気より下だった。俺が現れれば、誰も居なくなるから。 だからずっと1人だった。1人でいることは次第に慣れ、1人でいることが心地よくなっていた。でも、やっぱり…俺と同年代の奴らは俺とは違って誰かと一緒にいる。 それを心のどこかで羨む自分もいた。 自分も誰かと普通に遊ぶことは出来ないのかと疑問に思っては…贅沢な願いだとすぐにかき消していた。 中学に入って、家族絡みで俺を潰そうとする(やから)が現れた。同じように、暴力団の誰かの息子だ。 親父をよく思わない奴らの息子が、俺までもその世界に入るのを阻止したかったらしい。そんなつもりは微塵もないのに。 それがあったからか、喧嘩は自然と強くなっていった。 だけど、生傷は絶えなかった。 子供同士の喧嘩で負うような傷でもなく、あわよくば殺そうとしている奴からの怪我はそう治るものでもない。 子供を差し向ければ親は簡単に出れないと、それすらをも計画に入れたものだった。 骨が折れるのは日常茶飯事だったし、その怪我でも意識が飛ぶまで殴られるのは当たり前の生活で。 1人しかいない俺では、数人相手には勝てないことが多くて。よく路地裏に転がされてた。 『おい、大丈夫か…?』 そんな時だった。俺が、伊織と会ったのは。
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