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いくら伊織が強いといっても、不利な事には変わりない。俺が倒した奴らと合わせても、まだ半分はいた。
俺も一緒に立ち向かいはするけど、何度も傷付けられた体はボロボロで。ギプスを外してはいたが、多少の痛みは残っていた。
そこを殴られれば簡単に骨が軋むし、それを分かっているから狙われる。
それでも、隙を見て伊織を逃がす事くらいは出来た。でも逃げなかった。それどころか俺を守るように立ちはだかる。
俺はずっと、伊織が嫌いだった。
伊織だけじゃなくて、俺に話しかけてくる人間全てが嫌いだった。どうせ家の事を知れば俺を俺として見ないくせに…、こういう奴らに絡まれて、少し怪我をして学校へ行けば、変な目で見始めるから。
『お前、一般人だろ?何でこいつに絡むんだよ。家の事知らねえのか?いつか撃たれんぞ』
ケラケラと笑う声がした。
どうせ伊織も離れていく。悪さをしてたって、喧嘩をしてたって。その世界に足を踏み入れたくないはずだ。
踏み入れた時点で犯罪者として見られる世の中だから。
伊織には直接は言ってなかったけど、いつか分かるだろうと思ってた。こうやって、誰かがバラすから。
『教えてやろう!俺の親父はしがないサラリーマンだ!』
『…それがどうした』
『そういうことだよ!ばーかばーか!』
だけど、そんな俺の気持ちも…伊織には関係なかったようだ。
ヤクザとサラリーマンでは違いすぎると思うけど…その時は、その言葉に少しだけ救われた。
興味本位で近付いて来ているのかと思ってたのに…伊織は違ったんだと。
『親父はサラリーマンだが!俺は将来、学校の先生になるつもりだ!公務員だ!奏も一心同体だから先生になる事は決まってんだよ!お前らと違って!』
胸を張って意味不明な事を言う伊織に、相手も馬鹿にした笑いを見せていたけど…俺も、柄にもなく笑ってしまった。
こいつとなら、友達になれるかもしれないと。
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