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伊織は女が好きだ。それに、俺の気持ちは俺の中だけで留めておくつもりだった。
その気持ちを振り払いたいのに、そうしなかったのは…伊織が、あの日から暗くなったから。
拓海の事があって、俺や裕翔の支えで少しは回復したけれど。時折思い返しては、いつも泣きそうな顔をしていた。
『なあ奏…俺、たまに死にたくなる時がある。なのに、怖くて死ねないんだ。昨日も、屋上まで登って…あと一歩だったのに。臆病だから踏み出せなかった』
そう言い出された。伊織は死ねなかったことを罪かのように話していて…俺が思っているよりも、かなり追い詰められていた。
ぽろぽろと涙を流して、死にたいと呟く伊織をどうすれば守れるのか。
生きていて欲しい。伊織は、俺を救ってくれた人だから。それだけじゃない。伊織は俺に全てを教えてくれた。
嫌悪感は、いつしか友情に変わって、友情は、いつしか愛情へ。
その愛情は、伝えてはいけないと思いつつも…それがあるからこそ、伊織から離れない選択をした。
態度に出して、伊織が拓海のことを考えないように。たった1秒でもいい。俺が、忘れさせてあげたかった。
『辛くなったら言っておいで。伊織の望む事は何でもしてあげる。だから、死ぬ時は一緒に死なせて。伊織がいないなら、意味無いから』
俺は伊織に依存してると思う。その自覚は充分にある。でも、そんなのはどうでも良かった。
伊織は人一倍、友達のことばかり考えて、自分を大切にしなかったから。伊織のことは、周りが守ってあげないと。
そこに恋愛感情が入って変に拗れてると…裕翔には馬鹿にされた記憶がある。
その前に男同士という考えはなかったらしい。能天気な裕翔らしい考え方だ。そこもまた、居心地が良かったけど。
伊織が一番だけど、伊織が一緒にいる空間も心地いい。
面倒だから話すことは無いけれど…伊織以外の奴らも、それなりに友達とは思ってる。俺なりに。
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