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「俺と奏、二人とも溺れてたらどっちを助ける?」
「近い方!」
「同じ距離で」
「より苦しそうな方!」
「二人とも死にかけ」
「友達と手分けして同時に!」
「伊織一人しかいない」
哲学な質問だと思ったら心理テスト始まっちゃったよ…。そんなの、どっちも大切なのに選べないっての。
てか、この三人で溺れるほど深い海にもプールにも川にも湖にも行かないよ…。めっちゃカオスじゃん…魔王と魔人に挟まれる俺、めっちゃ可哀想じゃん…。
何があっても微妙な雰囲気になるに決まってるメンバーで行くなんて自殺行為すぎるのに。
「何でそんなこと聞くんだよ…。てか拓海が溺れてたら、その場にいないポチさんが現れて助けに行きそうだから、俺の選択肢は奏しかないんじゃね?」
「馬鹿なの?」
すげー冷ややか。目が。イケメンの死んだ目って、イケメンすぎて敗北感しかないわ。イケメン何したらイケメンじゃなくなんの。
それでこの答えは何になるの。何て答えたら正解なの。小難しいのは苦手だって知ってるはずなのに。
「自分で自分の事が分かってないから言うけどさ。伊織は迷わず奏を助けると思うよ。というより、奏を見たら俺には気付かないと思う」
「どういう意味…?」
「そのままだよ。奏は伊織がいないと死んじゃうけど、伊織は奏がいないと生きていけないでしょ?」
何が言いたいのか分からなくて、頭にハテナだけが浮かぶ。絶対今、ちょー間抜けな顔してるわ俺。
拓海も、人間に出来る最大限のため息ついてるし。こんなに文字が見えそうなくらいのハァってため息聞いたことないよ。
「そろそろ気付けば?奏のこと大好きじゃん。奏のためなら、考える間もなく命落としに行く馬鹿だってこと」
「それは…友達として…」
「あれ見ても?」
そう言って、拓海は気だるそうに正面を指さした。
ベットサイドに座る拓海の正面は、俺を跨いだ隣のベットに向けられていて。その指先を辿るように隣を見ると、人が寝ていた。
顔に白い布をかけられている、男の人。
何で…。ダメだ。見ちゃいけない。そう思うのに、体は勝手に動いてて。震える手でその布を取ると、俺の見慣れた顔。
綺麗に眠る奏がいた。
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