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「…かなで、おい。起きろよ」
何でこんな事に…?嫌な夢でも見てるんだろうか。揺らしても起きない奏に、焦りだけが増えていく。
俺は、守りきれてなかったんだろうか。守れたと思って…安心していたのが馬鹿みたいだ。本当に、俺は馬鹿だ。
「拓海…これ、どういうこと」
「見たままだよ」
何でこんなことになったの。それを聞きたいのに、聞きたくない。口が動かない。頭が追いつかない。
奏は、いつも俺を守ってくれてて。だから、俺にも多少は恩返し出来たかなと思ったのに…そう思っただけだった?
実際は何も返せてない。奏にはたくさん…返し切れないほどたくさん、してもらったのに。
感情は追い付かないのに、ポロポロと涙が流れて。縋り付くように手を握ると、その手は冷たかった。
「ねえ伊織、聞いて」
「うん、何?」
平然としていられる状況じゃないのに。変に頭は冴えていた。現実を現実として受け入れられなくて。
これは全部夢なんじゃないかと。悪夢であってくれと。現実だと、どこかでは分かってるのに。
「こんな時に言うべきじゃないかもしれないけど、伊織には今しか言えないと思うから言わせて。今までごめんね」
突然の謝罪に、どうしたのかと振り向くと、冗談でも何でもなく。拓海は俺に頭を下げていた。
「あの時、俺は現実と向き合うのが嫌で…伊織に責任を押し付けた。伊織は何も悪くない。俺達は何も悪くなかったのに…俺自身が、誰かに感情を向けないと、どうにかなりそうだったんだ」
何で今、そんな話をするんだよ。
そんな風に…俺の心を軽くするような言葉を向けられたら。この悪夢が、悪夢じゃなくなっていくじゃんか。
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