ふゆやすみ

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「かなで…?」 「ん、…ううん」 返事もしてくれた。そしてゆっくりと瞼が開く。生きてる。奏はちゃんと、生きてる。 その瞬間、すごく安心して、良かったと。本当に良かったと涙が溢れてきた。 奏に抱きついて、生きててくれてありがとうって、本当に感謝してたのに…奏の奥の方から、裕翔が出てきた。 「びっくりしただろ?てか死体は病室に置かないって!騙されやすすぎ」 ヘラヘラとした笑顔を浮かべる裕翔に、どこに隠れていたんだと思ったのと同時に、この犯人はこいつかと…体の奥底がふつふつと沸騰する感覚。 その時、裕翔の隣からバツの悪そうな顔をして翔も出てきた。 「俺は止めました…止めましたよ…」 そうボソボソと呟きながら、俺の顔を見て逃げるように病室から走り去った。 ここにいるのは裕翔と俺。眠る奏は穏やかそうな寝顔を浮かべている。 「この氷…何?」 「それ!いいアイデアだろ?死体を表現するために体温どうするかってなってさ。身体中に氷詰めたらいいんじゃね?ってなって」 「そう…死体を表現するために…」 そこでやっと俺の異変に気付いたらしい。裕翔はズリズリと後ずさりしながら、逃げる隙を伺っているけど…そう簡単には逃がさんぞ。絶対。 どう料理してやろうかと考える俺の思考を読み取ったんだろう。裕翔はあははと苦笑いを浮かべながら謝ってくるけど、俺の心には何も響かない。 「落ち着け、な?これは伊織に奏の大切さを気付かせるための…友達からの計らいだと思ってさ…」 「そう、じゃあ感謝しなくちゃな。めいいっぱい…」 「やべえこいつ目が()ってやがる」 ちなみに言うと、この辺りからの記憶はぶっ飛んでいる。きっと俺の脳が、この記憶は無意味なものだと判断したんだろう。 次に気付いた時には、俺を羽交い締めにする拓海と翔がいて、顔を腫らした裕翔の前には奏がいた。 更に言うと、この事件により俺の傷口は再復活して、入院期間が伸びることになった。
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