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思わず近所迷惑顧みずに叫ぶと、
美悠の落ち着いた声が、
前の方から聞こえた。
「ムカついてもいいけど、
信号が青のうちに渡ってね」
「え、信号? ……きゃあ!」
顔を上げると、
横断歩道の信号がもう赤に変わっていて、
車が今にもクラクションを、
鳴らさんばかりに近づいてきていた。
「そんな慌てなくても、
向こうだって轢きたかないよ」
「美悠は冷静すぎなの!」
急かしたりなだめたり、
どんなことでも落ち着いて、
あっさりこなす美悠に、
思わず八つ当たり気味に叫んだ。
けれど、気にする様子もなく、
階段を上りながら彼女は淡々と答える。
「いつものことでしょ?
いい加減に慣れなさいよ。
私にも、樹くんにも」
「う」
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