里帰り

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      ●  ○  ● 8月。 エドラス魔法学園では、夏休みに入る。1ヶ月と少しの長期休みを何に使うかといえば、大体の学生は帰省と答えるだろう。 同学園の1年生ワタル=ディフォートもその例に漏れず、半年ぶりの実家へと歩みを進めていた。 「しっかしまあ、改めて見ると本当に何もないな」 怠そうに呟いて、周囲を見渡す。最寄りの町から故郷に続く一本道の他は、ひたすらに畑やら水田が広がっていた。ポツポツ建っているのも、殆んどが水車小屋だ。アレストリアという商業都市の付近で過ごした後では、随分と味気なく思えてしまう。 (この分だと、日が暮れるまでには着けるかな) 真上に位置する太陽をチラリと見てから、そう当たりをつけるワタル。町と故郷を行き来する荷馬車でも捕まえられれば良かったのだが、天はそこまで恵んではくれなかったらしい。 あと1時間半を徒歩で行く決意を固めたワタルは、右手に持った旅行鞄を握り直して、 「遅いっ!! 一体いつになったら着くのよ!」 イライラが最高潮に達した少女に怒鳴られていた。
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