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「──」
近づく度に、足が重く感じる。兄の私室に辿り着くと、強く拳を握りしめた。
慎重にノックをしてから、
「ラーサーです。起きていますか?」
『うん。入ってきなよ』
出した声は予想以上に固かった。返ってきた声の警戒の無さが、緊張しているのをより意識させる。
ゆっくりと。本当にゆっくりと扉を開ける。夕暮れの中ソファに座って、真正面に彼はいた。
金の髪と緑の瞳。八歳違いの血を分けた兄を見たのは、随分と久しぶりな気がする。
「ははっ、もう少し嬉しそうにしたらどうなんだ。半年ぶりの顔合わせだぜ」
嬉しそうに破顔して、兄──シュゼイン=ファウルは砕けた口調で言った。その声が、表情が、ラーサーの心を波立たせる。
「『五星剣(ペンタグラム)』への就任、おめでとうございます」
「相変わらずだねえ。俺を利用することしか考えてない輩でも、もう少し心が込もっているだろうに」
「──貴方相手に込める心などないと言っておきましょう」
突き放すように言って、兄を睨む。明白な敵意を受けても、シュゼインは笑みを崩さない。
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