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「全く、どうしてこんなに嫌われたのかね」
やれやれと肩を竦めるシュゼイン。彼はラーサーのことを歯牙にもかけていない。手のかかる弟としか考えていない。
あれだけのことを、しておきながら。
「黙れ……!」
気付いたときには叫んでいた。いつもの彼とは程遠い、憎悪に満ちた声色だった。
激情のままに魔力を解放する。吹き荒れる風に窓が軋む。さらに召喚した魔弓を構えて、
「父さんと母さんを殺しておいて、よくそんな──!」
射出される7つの矢と、5つの三日月形の刃。全てがシュゼインに向けて殺到して──
光が、消えた。
音が、死んだ。
「────」
突如として現れた、一寸の先も見えない暗闇。矢を放ち終えた体勢のまま、ラーサーは固まってしまっている。攻撃がシュゼインに当たったのかすら分からない。
分かるとすれば1つだけ。
自分は今、怪物の舌の上に無防備で立っているということだけ。
「こらこら。こんなところで魔法を使ったら、大騒ぎになるだろう」
小さい子供をたしなめるような兄の声が聞こえた。
瞬きの間に、闇は晴れていた。紅い光に照らされた室内にシュゼインは先程と変わらず座っている。勿論、笑顔で。
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