第17章 利用する目的

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「実は……以前、蛤御門での戦の時に近藤さんに聞かれたんです 敵の動向を知らないか、と……」 「敵の……動向?」 暗闇の中、並んで座る二人 まるで世の中に自分たちしかいないような感覚 そんな中、万里はぽつり、ぽつりと話しだした 「はい。その時に伝えたんです 自分の分かる限りのことを 長州の動き、天王山の立てこもりなど……」 「そうか……それでどこよりも早く残党を見つけることができたのか」 永倉の中にあった疑問が溶けた 何故、天王山に向かったのか 戦場の渦中に居た近藤がそこに敵がいる、と自信満々に会津に伝えたのか 「はぁー……なにやってんだよ、近藤さん……」 思わず頭を抱える 「で?味をしめた近藤さんは頻繁にお前のところに来る、って訳か」 こんなところは察しの良い永倉 近藤が万里の元を訪れる理由も瞬時に理解した 先の世を知る万里、確かにその知識を利用すれば今後の手柄を全て新選組が独り占め出来るだろう しかしそれは如何なものか これでは万里はただ、利用されるためだけの存在になってしまう 「あのなぁ……いや、お前が新撰組のために何かしたいってのは分かる だが、俺はこんなことでのし上がろうとは思わねぇ なんだよそれ あの人はお前から聞き出した情報で、まるで自分の手柄のように振る舞ってんのか? あり得ねぇ 土方さんや山南さんだってお前が先の世から来た、って分かっててもそんなこと聞いちゃこねぇだろ? それはお前の知識を必要とせず、自分たちでなんとかするからだ それにお前のお陰で手柄を立てられたんなら、もっと報酬があってもいいんじゃねぇの!?」 禁門の変での働きに対し、朝廷・幕府・会津から莫大な恩賞を受けた新撰組は、各々の働きに応じてそれ相当の金子を支払った しかし平隊士である万里が副長や組長と同列になるわけもなく 僅かながらの報酬しか支払われなかった 同じような働きをしたにも関わらず、報酬に差が出ていた事に永倉は若干の不満を持っていた
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