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万里の家は古くから続く旧家であり
父は大企業を経営、母は良家のお嬢様という筋金入りの名家
京秀は父の跡取りとして小さな頃から英才教育を強いられ、万里は母の意向で茶道や華道、日舞から琴に至るまでを習わされる毎日
普通の子どものように友達と外で遊ぶことなど少なく、遊び相手といえばお互いだけ
まるで箱庭のような小さな世界
そんな中でも唯一の理解者である兄がいたから万里は幸せだった
しかし中学になった頃、万里は自分が置かれた境遇に疑問を持ち出す
「ねぇ、兄様
父様と母様は私が嫌いなのかな」
何を突然、と笑い出す京秀
「だって明らかに兄様との扱いが違うじゃない」
常にちやほやされ気にかけてもらえる兄とは対照的に、常に放って置かれる自分
幼い頃から感じていたことだが、最近は特に酷い
必要だから、と買い与えられる数々の品は全て京秀のもの
何かイベントがあれば全て京秀を連れて行く
人前に出ることの少ない万里は一人の時間が増えた
「私も父様や母様とお出かけがしたい」
「……父様の取引先や母様の気まぐれに引っ張り回されてるだけだよ」
「それでも……私も」
「……僕は万里が羨ましい」
ポツリと呟く京秀
その瞳は遠くを見つめる
いつもと違う雰囲気に不安を覚えた万里が声をかける
「……兄様?」
「なんでもない
さ、行こうか」
振り返った京秀はいつもと同じ笑みを浮かべた
この時の兄の変化に気付いていたら……
のちに万里は激しく後悔することとなる
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