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錦戸律。
染めもしていないのに淡い栗色の髪を襟足だけ伸ばし、切れ長の瞳はその髪よりももう少し濃い栗色をしている。
黒に近い紺色の学ランを白いカッターシャツの上に羽織って、リュックを背負って廊下をかける。
背が一般的な男子と同じ程あり、すらっとした体系がその中性的な顔立ちを助けて一見男のように思えるが、教師が怒鳴ったように律は本来セーラー服を着るべき女子生徒だ。
別に自身の性別を隠しているわけではない。
律が女子であるのに男子の制服を着ていることは学校中に知れ渡っていることだ。
ただ、兄のおさがりでもともとこの学校の学ランが家にあって、律自身もスカートよりズボンを好んで履いていたことから何の違和感もない。
口うるさく言ってくる教師も半分諦めているようで、ただの挨拶のようなものになっている。
二年生の学年色である赤色のスリッパを脱ぎ、靴を履くのもそこそこに学校を飛び出した律は学校から最も近い本屋にやってきた。
腕の内には、ずっと発売を楽しみにしていた『新選組』を題材にした漫画が抱きしめられている。
新選組八番組組長である藤堂平助を主人公にしたこの漫画の作者は、物語の構成は上手いのだが、筆が遅いのが読者泣かせだ。この新巻だって前巻の発売から三年ほどたっている。
「あー楽しみだなぁ。新八つぁんと平助どうなんだろ」
史実を基にしたフィクション漫画だから、あらかたどうなるかは想像がついている。
けれど作者によって解釈の仕方表現の仕方が違ってくる。
この人はどんな風にしてあの出来事を書き記すのだろうか。
そんな思いが律の胸を躍らせた。
もう一分と待たずに読み出したい思いを堪えて、スキップを踏んでしまいそうな足取りで律は帰路を急いだ。
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