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どれほど穴を通ってきたのだろう。
まるで何かの童話の主人公の少女のように、真っ暗な長い長い、どちらが上でどちらが下かわからない穴に突然光が射した。
ドスンッと大きな音と共に衝撃が律の体を襲う。
「いってぇぇ・・・」
落ちた衝撃で打ったところをさする。
いったいここはどこだと辺りを見渡そうとしたとき。
「な、なんだお前っ」
誰かの焦ったような声が部屋に響く。
ほぼ反射的に律はそちらへ視線を向ける。
律が先まで居たリビングより、一回り二回りほど小さい和室。
外に面しているのか白い障子の向こうは明るい。
その障子を背に律を見下ろすように人が立っていた。
律よりも黒に近い茶色の髪。
驚きで見開かれた目には焦りの色が滲んでいる。
「平助! 何事だ!」
ばたばたと慌しい足音が耳に届く。
叫びにも似た言葉と同時に白い障子が開かれた。
今まで紙越しに射していた光が障害物をなくして直接部屋に差し込んだ。
眩しい光に目がくらむ。
明るさになれた律の瞳に映し出されたのは正反対の漆黒。
長く艶やかな髪に息を呑んだ。
眉間に皺を寄せひと目で不機嫌だとわかる。
そんな黒の姿に、律は何故か目を輝かせた。
教科書や資料などでいつも探していたその姿。
洋服ではなく着物を着て、短髪ではなく長い髪を高く結い上げているところは初めて見たが、間違いない。
この人は……――
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