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実香は再度「いらっしゃいませ」と言うと、水をトレーに乗せ客がついた席へと向かった。
テーブルに水を置き、笑顔を向けると客は嬉しそうに笑い返してきた。
「珈琲ですね」
実香がいうと、客はゆっくりと頷き「はい」と短く答えた。
「ブレンド入ります~」
カウンターへ戻ると、店長に伝える。
「はいよ!」
店長も嬉しそうにサイフォンをセットし始めた。
店内にあふれるように流れるコーヒーの香り。
それはいつも以上に、安らいだ香りがする。
さっきまでの寂しさが嘘のように消え、今実香の心の中を満たしているのは、春風のように暖かい、菜の花のように優しい風だった。
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