第1章 声

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それを飲み込むように、琉可はビールを一気に飲み干した。 ああ、もう今日はこのまま家に、大阪に帰ってしまおう。母は数日東京に残って観光していくと言ってたし、明日は大学の講義もあるし。何より母とこれ以上母といっしょにいても、ユカリの話しか出てこなさそうだったから。 それよりも気になるのはあの一人で。 (にしても……あの人なんであんな顔してたんやろ) 浮かぶ疑問はそればかりだ。泣きそうに歪んだ瞳を思い出す。 (ユカリちゃんと因縁…………まさかな!)     はは、とかすかに笑う。新郎の友達か式場の人かは不明だが、どうせ東京人だろうから、まあまず会わないだろうと結論づける。   酔いが少し回ってきたみたいで、ふわふわと気持ちいい。せっかくだから、しばらくはこのいい気分のままでいたいと思った。
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