第1章 声

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彼の歌が終わったあと、新婦のお色直しのための小休憩のようになった会場は、だんだんガヤガヤとにぎやかになっていく。 琉可はもう出て行く気力も無くして、そのままテーブルに頬杖をついた。     (……まぁ、わざわざ東京まで来た甲斐はあったかもしれん)    とても、興味深いものが見れたから。   他人のことを詮索しようとは思わないけど、興味がある。     あとで、あれが誰か聞いてみようか、と考えて、自分で驚く。こういう席は落ち着かないから好きではないんだけれど。 もう二度と会わないであろう相手なのに、もう二度と会わないであろう相手だからこそ、気になったのだと思う。   (……結構男前やったし)   まあ好みではなかけど、と呟いて、琉可は東京に来るまでに消費したエネルギーを埋めるために、唯一食べられそうな肉料理に手をつけた。 魅力的に見えなかったそれは、予想に反して高級な味がしたのであった。
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