第1章 声

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* 式も終盤に差し掛かり、来場客が各々新郎新婦と挨拶を交わし記念撮影にいそしむ中、琉可は周囲を見回していた。 しかし会場内に、あの男は居なかった。     (なんや…帰ったん…?新郎の友人やなくて式場の人やったんかなぁ) もしも式場の演出だったら、誰に聞いてもわからないかもしれない。わざわざ式場スタッフに聞くのもはばかられた。 また見れると思ったのに、と呟きながらビールを一口飲む。   しかしたかが式場スタッフが、あんな演出をするだろうか?仕事とはいえ、赤の他人の結婚式で、見るだけで胸を切られるような歌を。 ただ、新郎の友人だろうが、式場の演出だろうが、琉可にはあまり関係がないのは事実。 彼がいないのなら長居しても意味ないと判断して、残りのビールに口をつけたとき。 「……琉可っ!ちょっとおいで!」 「っえ!何!?」 突如腕を引っ張られて、ぐいぐいと連れて行かれる。母の声は目に見えて弾んでいた。
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