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『しかし…』
男は言いよどむ。
オミはナオトを見つめていた。男が言ったことが本当ならば、この少年が次の軍神となるべき人物。この国を治めることになる人物なのだ。
オミは驚きを隠せなかった。オミの知っている力を持つ者はオミから両親を奪い、そして今度は兄を奪っていた。
だがナオトはオミから大切なものを奪うのではなく、与えようとしてくれている。
国の掟を破ってでも…。
『しかし、掟は掟。わたくしはここを護るものとして、掟を破ることはできませぬ』
男はナオトに向かいきっぱりと言った。
『スウェイ、お前がこの国に来たのはいくつの時だったか?』
ナオトは着物の袖に腕を入れ動かぬ少年に声を掛けた。
『確か五つの時だったな』
スウェイと呼ばれた少年が答えるとナオトは男に向かって視線を投げた。
『十にならずともこの国に入ったものがここにいる。もしスウェイがまだ十でなかったら、お前は俺の義弟もこの国から追い出すのか?』
男は何も言えず、ただ唇を噛みしめた。ナオトは男の前に立つ。
『そなたの忠義心は分かっておる。だがこの少年を見捨てるような男に、この国を背負う資格があるだろうか?すべての責任は俺が負う。このものを国に入れてやってくれ』
ナオトの言葉に男は跪き、その頭を垂れた。
『はっ』
ナオトの振る舞いはすでに一国を治めるものの威厳に溢れていた。男は次の軍神たるこの少年に仕えられることを誇りに思った。
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