序章

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自分の行動が均衡を崩した。そう思えてならなかった。 サクラはオミにとっても愛した女性。そしてナオトはオミにとって主であると同時に、返しきれない程の大恩ある人物。 その二人を一気に失ってしまったのは、己の浅はかな行動への報いではないのだろうか。 オミはその拳を固く握りしめた。噛みしめた唇から血が滲む。 オミの中で抑えきれない程の怒りが沸き起こる。しかし、その怒りの矛先は誰でもない、自分自身にだった。 『ナオト殿…』 絞り出すように口にしたその名前は、思っていた以上に己の心を締め付ける。オミの心はまるで蜘蛛の巣にかかった蝶のようにもがき、誰にも聞こえない悲鳴を上げていた。 『オミ…』 オミは背後に意識を向ける。その声から伝わるのは、自分に対する心配だけ。 だが、自分は心配される立場ではない。 自分の行動に責任を取らねばならぬ。オミは手にしていた刀を強く握りしめた。 『どこへ行くつもりだ?』 振り返ったオミにリュウジが問いかけた。真直ぐに自分を見つめる兄の視線から目を背けたオミは唇を噛みしめ俯いた。
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