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『俺のせいだ。俺がサクラに想いを告げたから、サクラは…』
『オミ!お前のせいではない。自分を責めるな』
リュウジは俯いたままの弟の肩を掴んだ。オミはそれでも顔を上げようとはしなかった。
『ナオト殿は我ら兄弟の恩人。あの方を苦しめる元凶を俺は許せない』
オミはそう言って顔を上げた。その瞳に宿る怒りの光にリュウジは気付いた。
『オミ、お前敵国へ行くつもりか?』
兄の問いかけにオミは黙って頷いた。
『ナオト殿があのような状態なのだぞ。そんな時に国を留守にすると言うのか?』
リュウジはもう一度オミの肩を掴み、オミを諫めようとした。だがオミの決心は揺るがない。
『ナオト殿があのような状態だからこそ、憂いを払いに行くのだ。止めるな、兄者』
オミは肩を掴む兄の手に自分の手を重ねた。リュウジの手から力が抜けるのを感じてオミは兄の横をすり抜けていく。
リュウジは弟の背中を見つめた。その背中には揺るがぬ決意と悲しみが浮かんでいた。
誰にも聞こえないオミの心の悲鳴が兄であるリュウジには聞こえていた。
『馬鹿者が…』
リュウジはそう言って溢れそうになる涙を必死で堪えた。
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