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『兄者―、兄者―』
オミは必死で立ちはだかる大人たちに向っていった。だが容赦のない大人はオミの腕をすごい力で掴んだ。痛みが走ってもオミは死に物狂いで暴れて見せた。
『こいつ』
オミの抵抗が激しくなるとさすがに制しきれなくなり、男はオミの顔を殴りつけた。殴られた勢いでまだ小さなオミの身体が吹き飛んだ。
『ぐっ』
オミは小さなうめきを上げるが、よろよろと起き上がる。
『兄者…』
何度も何度も兄を呼ぶ。泣きながら兄を呼ぶ。溢れる涙を拭っても、またその頬は零れ落ちる涙で濡れる。
『兄者』
オミがまだ諦めていないのを見て男は吐き捨てるように言った。
『ここに入れるのは十になったものだけだ。お前はまだ九つ。まだ鍛錬についてはこられぬ。来年まで待つが良い』
そんなことは言われずとも分かっている。だがオミにとって兄はたった一人の身内。
父も母ももういない。兄のリュウジだけがオミの支えだった。
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