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所謂、ゲイセクシャル限定入店可能のバー。
一見さんお断りの、マイノリティ達が集まる都内の隅にひっそり佇むその場所に、昔馴染みのゲイ仲間の紹介で入り浸る様になったのはいつからやろか。
そもそも興味本位で片足突っ込んだこの世界から何故か抜け出せなったのはいつからやろうか。
遊びはせえへん。色々怖い言うのもあるし、元々人見知りに奥手が手伝ってこのバーに来ても言葉を交わすのはやけにつまらんギャクを飛ばすヘラヘラしたバーテンと、俺と同じ昼間は何の変哲もないサラリーマンらしい透き通る様な白い肌が特徴的な男。その位。
何と無く真っ直ぐ帰る気が起きずに、妙に居心地の良いそのバーに顔を出したのが残業を終えて夜10時を過ぎた頃。取引先との交渉が巧く行かんらしい白いのがそれから間も無く顔を出し、陽気でお人好しなバーテンと2人で話を聞くこと約3時間近く。
これはもうタクシー呼ぶしかあらへんな、等と溜息交じりにテーブルに突っ伏す白いのの背中を摩っていればカランカランと夜更けにも関わらずドアに付いたベルが音を立てる。
反射的に入り口に視線をやった俺は思わず固まった。そして入り口に友人?恋人?と2人で立ち竦むそいつもこちらを驚いた表情で見つめとる。
すらっとした高い背丈。通った鼻筋、二重で黒目がちの瞳、少し厚い唇と女性ならすれ違えば振り返る甘いマスク。せやけどそれを鼻にかけへんのんびりした雰囲気に人懐っこさとお人好しさも相成って、その周辺では小学生のガキンチョから爺婆にまで大人気のその男。
俺も例に漏れず、そいつに惹かれそいつの店で昼飯を買うのが日課になっとる。
「 さん?」
俺の愛用するパン屋の店主は、恐る恐るといった雰囲気は感じるも、柔らかい声で俺の名前を呼んだ。
ああ、やっぱりこいつの声好きやなあ、なんぞ頭で呑気な事を考えながらも身体は思う様に動かへんくて。余計な事に空気を読まへんバーテンは入り口付近の2人をこちらに座る様に手招きした。こいつ、シバき倒したろか…。
奇しくも、俺と彼は共通の秘密を互いに暴露してしまう事になってしもうた。
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