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周防さんの病院からの帰り道は気持ち的には何でもなかったのに、自宅に近づくにつれて見えない不安がひしひしと僕を襲ってきた。
すぐ傍に郁也さんがいるというのにだ。
不安を悟られないように俯きながら歩いていたら、そっと肩を抱き寄せられる。
「今夜の晩御飯は涼一の大好きな、野菜のいっぱい入ったカレーにしてやるからな。楽しみにしてろよ」
抱きしめている手にぎゅっと力が入って、更に郁也さんとの距離が縮まった。
いつもはこんなに敏感じゃない人なのに、どうして僕が不安がっているのが分かったんだろう?
俯いてた顔を郁也さんに向けると、柔らかく微笑んでくれる。その笑みを見ただけで不安だった気持ちが、すっと拭われていった。
「――郁也さん、いろいろとありがとね」
「何、言ってんだ。これくらい、どうってことないだろ。しかもお相子だろ?」
「お相子?」
僕が首を傾げると外だというのに、掠め取るようなキスをする大胆な郁也さん。
「俺が寝込んだときに、一生懸命に看病してくれたろ。実はすっげぇ嬉しかったんだ。しばらく仕事が忙しくて一緒にいられなかった分、涼一が付っきりで離れずに傍にいてくれたから」
「僕も同じ気持ちだよ」
「いつまで休めるか分かんねぇけど、家に帰ったら何をするかを話し合おうぜ」
うきうきしながら提案してくれたけど、正直したいことなど思い浮かばなかったので、家でのんびりすることになった。
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