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「小田桐さんに、お大事にって伝えてください」
2時間ほど勉強を見てやった後、太郎は一言そう呟き帰って行った。多分周防に、様子を見に行けと言われたに違いない。
今じゃ外にも出られなくて不安が募り、眠れないからと代わりに周防の病院へ行って、睡眠導入剤を貰ってきた。だが、やっぱり途中でうなされて起きてしまっていた。
そんな夢うつつの状態がしばらく続いてるせいで、身体の調子がいいワケがない。
気遣いながら様子を窺う俺に、ますます気落ちする涼一。
「こんな生活、したくはないだろうに」
すべては俺の采配ミスから起こったこと。元の状態に戻るまで、しっかりと面倒を見る決心がついていた――
ノックしてから涼一の部屋を覗くと、窓ガラスにもたれかかったまま寝落ちしていた。
少しでも良質の睡眠がとれたら……そっと近づいて抱き上げると、ベッドの上に横たえさせる。
「う……?」
「悪い、起こしちゃったか」
ベッドの脇に跪いて、涼一の頭を撫でてやった。
「郁也さん――」
「何だ?」
「僕明日、実家に帰るよ」
唐突な言葉に驚きしかない。ぽかんと口が開けっ放しになる。
「これ以上迷惑をかけたくないんだ。いつ治るか分からない僕に、ずっと付っきりで、仕事復帰の目処もたたないでしょ」
「そんな……俺はただ」
「だったら、さよならしようよ。自由になって、郁也さん」
目を細めてふわりと笑ってるのにその瞳からは、一筋の涙が零れ落ちた。
「……自由って、何だ――」
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