ピロトーク:ピロトークを聴きながら

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 声が掠れてしまう。涼一の心が、さっぱり分からない。 「自由は自由だよ。僕みたいなのに構ってないで、いつも通りきびきびと仕事してほしいんだ。仕事をしてる郁也さん、すっごくカッコいいんだから」  さよならなんて言葉を使っておいて、それはないだろ。 「バカ野郎っ!! 自由なんてクソくらえだっ!」 「っ……郁也さん?」  細い身体を、ぎゅっと抱きしめる。 「自由なんていらねぇよ。お前がいないんじゃ、何の意味もなさないんだ。涼一が隣にいて笑ってくれなきゃ、生きる意味なんてないんだぞ!」 「だけど……」 「今はこんな状態だけど、それでも俺はずっと傍にいることができて嬉しいんだ。仕事だって頑張れるのは、涼一の作品を一番最初に読むことができるからだし――」  そんな大事な作品を他人に任せようとしたツケが、今回の事件なんだ。いくら自分の仕事が忙しいからって、ないがしろにしちゃいけなかった。 「僕ね……小説で告白シーンを書くとき、いつも郁也さんのことを想って書いてるんだよ」  両脇に下がっていた涼一の腕が俺の身体に回されて、抱きしめ返してくれる。 「言葉にしても言い足りないから、ちゃっかり文字にして残しているんだけど」 「……そんな大事なラブレター、あんなヤツに任せようなんて俺はバカだな」 「だけど読んでくれるのが分かっていたから、あえて何も言わなかったんだけどね」  抱きしめられた身体から、あたたかい温もりがじわりと伝わってきて、思わず安堵のため息をついてしまった。 「だがな、俺以上にバカなのは、お前だよ涼一。どうしてさよならなんて言うんだ?」 「だって最近、郁也さんは無理して笑ってさ、僕を気遣ってばかりいたから。いつか疲れ果てて、見限られちゃうかもって考えたんだ」
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