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涙目で俺を見上げ、渋々と言った感じで告げる。
「こんな情けないヤツ、途中で放り出すワケがないだろ。また、ゴミ屋敷で生活するのか?」
「それは……昔に戻っちゃうのは、目に見えてるけど」
「俺は涼一がいないとダメなんだよ。お前のために、俺が存在するんだからな」
しっかりしてるクセしてだらしないところもあって、全然目が離せない。今なんて精神状態がふわふわしていて、心配ばかりさせる。だけどそんなお前が、愛しくて堪らないんだ。
逃がさないように後頭部に手を添えて、涼一の唇にそっとキスをした。ついばむキスを何度か繰り返したら、俺の頬に両手を添える涼一。
「僕ね、郁也さんと一緒に暮らすようになって、実感したことがあるんだよ」
「どんなことに?」
「当たり前の毎日なのに、一緒にいるだけで楽しくて幸せを知ることができたから」
「そうだ。大なり小なり、どんな幸せも感じる取ることが俺もできてる――」
僕が一人暮らしをしていたときには、そんなことを感じなかったのにね。
「鳴海さんに襲われたとき、もうダメだって思った。昔のようにヤられちゃんだって簡単に諦めちゃいそうになったときに、郁也さんの顔が頭の中に浮かんできたんだ」
あんな極限な状態だからこそ、一番愛しい人の姿が現れたのかもしれない。襲われた僕を見て、ショックを受けるであろう郁也さんの姿――そんな姿を見たくないって思ったら、諦めたくないって強く思った。
「郁也さんのお陰で、必死に抵抗したんだよ。鳴海さんにとっては、大したことがなかったかもしれないけど」
「だけど涼一が頑張って抵抗したから、俺が間に合うことができたんだぜ、きっと」
「そうかな……」
「絶対にそうだ、偉かったな」
愛おしそうに呟いた言葉に、目頭がぶわっと熱くなる。郁也さんはいつも、こうやって支えてくれていた。揺らぎそうになる僕を、きっちりと立て直して支えてくれて――
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