ピロトーク:運命の出逢い

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 肩をすくめたとき、ピピッと電子音が聞こえた。体温計の数値を見て、周防が眉をひそめる。 「病気も間違いなくドストライクだよ。子どもの間で流行ってるからね、インフルエンザ」 「げーっ、マジかよ……」  出版社命令できちんと予防接種をしてはいるが、絶対に感染しないという保障はない―― 「早速、点滴と熱さましの座薬を投入してあげないとねぇ」  手際よくそれぞれを準備していく姿を見て、迷うことなく手を差し出した。 「え――? 何、手伝ってくれるの?」 「当たり前だろ、昼休み潰しちまったからな。座薬くらいなら、俺にでもできるだろ」  真面目に手伝うと言ったというのに、なぜか顔を赤らめる周防。 「…もしかして、ももちんのナニを座薬と一緒に――」 「アホか。インフルエンザの病人を襲う気になれねぇって」  履いていたジーパンを下着と一緒に膝まで下ろして、手渡されたゴム手袋を装着し、座薬の先にワセリンをつけて、さっさと入れてやる。 「あぁ…っ、んぅ……」 「今、薬を入れてやったからな。もう少し頑張れよ」  声をかけながらジーパンを履かせてやり、布団を被せた。その間に周防は細長い腕にさくっと点滴をして、滴り落ちる液体を時計と睨めっこしながら微調整する。  普段なよなよした話し方をするヤツだが、仕事で子どもを診る関係上、仕方ないのかもなぁと思いつつ、やっぱりできる医者ってカッコイイと思わず見惚れてしまった。 「これでよしっと。あらやだ、じっとこっちを見て。ももちん、どうしたの?」 「医者ってさ、白衣着てるだけで、格好良さが2割り増しになるよな」 「ふふ、そうだね。ももちんが白衣を着たら、子どもを無理矢理病気にしたママさんたちが、こぞってやって来そう」  白衣を着た王子様だよねぇと、笑いながら俺を肘でツンツンする。 「隣の点滴室に移すから、ベッド押してくれない? インフルエンザだから、しっかり隔離してやらないと」 「分かった。よいしょっと」  ベッドを動かせるように足元のキャスターのロックを解除して、ゆっくりと移動した。
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