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隣の部屋に移ると隅っこに置いてあった椅子を引っ張り出して、ベッドの脇に設置する。
「ももちん、仕事はどうするの?」
「病人と接触しちまったからな。今日は様子見で休むことにする」
うんざりして伝えると周防はなぜか嬉しそうに微笑み、病室から出るべく背を向けた。
「何かあったらナースコール押してね。襲っちゃダメだぞ」
意味不明な念押しして、静かに出て行った。
「だーから、病人は襲わねぇって!」
聴こえないだろうが、デカい声で文句を言ってやる。――っと、病人がいるんだった!
「とりあえず、編集長に連絡しなきゃだな」
一旦病室を抜け出して外に出た。うーんと言いながら大きな伸びをしてから、三木編集長にコールした。
インフルエンザの病人に偶然接触し、病院へ担ぎ込んだことを伝えた時点で――
「危険人物に今日の用はない! とっとと家に帰れ!!」
なーんていうあり難い命令をしてくれたので、二つ返事で電話を切った。
「危険人物って、俺は凶悪犯か!?」
ユニークな編集長らしい言葉なれど、もっと別な表現があるだろうよ。
苦笑いしながら病室に戻ると、ベッドの中でうんうん言って苦しそうにうなされている憐れな病人が目に映った。
「おい、どうした? 苦しいのか?」
慌てて近づき、抱き起こしてやる。
「み、水が飲みたい……。喉の奥が引っ付いて、苦しい――」
うっすら目を開けて、掠れた声でやっと告げた言葉に頷いてみせた。
「分かった。すぐに持って来てやるから、ちょっとだけ我慢してろ」
水ごときでナースコールするのは気が引けたので、院内にある自販機に向かい、しばし考える。
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