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「本当は熱があるときは、スポーツドリンクの方が吸収率がいいから飲ませたいが――点滴しているし水を飲みたがってるから、言うことをきいてやるか」
コインを3枚投入して水を購入し、急いで病室に戻った。
ペットボトルの蓋を開け、抱き起こして手渡そうとしたけど力が入らないのか、手先が震えて上手く掴むことができずにいる憐れな病人。
「すみません。何か体のコントロールが、上手くいかなくて……」
「しょうがないだろ。こんだけ高い熱があるんだから。飲ませてやる」
そう言って、ペットボトルの飲み口を口元に持っていったのだが、飲み込むことすら困難そうで、ちょっとずつしか飲むことができなかった。
さっきから肩でずっと荒い息をして、辛そうだ。このまま起き上がらせておくのも可哀想過ぎる。
(編集長ごめん。忙しいときに、休むことになるかもしれない――)
「ちまちま飲んでたら体力を使うからな。とりあえずおまえ、目をつぶれ」
「はい――?」
「いいから、言うことを聞け。何も考えるなよ」
突然何を言い出すんだ、コイツはという表情を浮かべつつ、恐るおそる大きな瞳を閉じたのを確認してから、ペットボトルの水を口に含んだ。
そして形のいい唇に目掛けて重ねてやると、ゆっくり水を流し込んでやる。
「っ、ンンっ――!?」
驚きながらも口の中にもたらさせる冷たい水が自動的に入ってくるのを、黙って受け入れてくれた。
「悪りぃ。その……こっちの方が、おまえが楽かと思って」
言いながら、口元から少しだけ零れていた水を、手で拭ってやる。
「いえ……えっとスミマセン。見ず知らずの人にたくさん、お世話をさせてしまって。何と言っていいのか」
熱があるというのに、更に顔を赤くして病人が俯いた。
「俺、桃瀬 郁也。おまえは?」
「僕は小田桐 涼一と言います。助けて頂き、ありがとうございます」
水を飲んだからか、先ほどよりも声の掠れがなくなっていた。
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