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「水、まだ飲むか?」
桃瀬 郁也という人が、気遣うように僕の顔を覗く。
――どうしよう、困った――
ホントはもう少し、水が飲みたい。けれど見ず知らずの人に思いっきり迷惑をかけてる上に、これ以上ワガママなんて言えないよ。
視線を右往左往してから、桃瀬さんの唇を見てしまう。
さっきこの唇に、キスされちゃったんだよな。
「遠慮はするな。飲めるときに、飲んでおいた方がいいぞ」
「はいっ! じゃあ遠慮なく……っ!」
唐突に投げられた言葉に元気に返事をしてしまい、両手で口元を押さえた。
「ははっ、自分に素直なヤツは好きだよ」
テレまくる僕の頭を、ぐちゃぐちゃと撫でまくってくれる。さっきからドキドキが止まらない――
こんな格好いい人に好きと言われただけじゃなく、優しく頭を撫でられるシーンは、まるで僕が書く小説の登場人物みたいだ。
「じゃあ、目をつぶってくれ」
さっきは口移しされるなんて思わなかったから、自然体でいられたけど、今度は来るって分かるだけに胸の高鳴りは半端ない!
あの唇にもう一度、キスされちゃうんだ。緊張しちゃうよ。
「おいおい、そんなにぎゅっと目をつぶるな。肩の力を抜けよ」
「は、はいっ!」
情けないことに、声が裏返ってしまった。
「ぷっ! 唇、少しだけ開いてて」
少しだけ笑いながら指示してくれたので、黙って言うことをきく。
そっと肩を抱き寄せられたあとに唇を合わせると、冷たい水がちょうどいい感じで流れ込んできた。
流れ込んでくる水を感じながらも、重なっている唇に意識がいってしまう。
キスしてる唇ってただ触れ合っているだけなのに、どうしてこんなに感じるんだろ? 今までは嫌悪しか感じられなかったのに――これはきちんと小説の描写に取り入れないといけないよね。
「……んっ?」
真剣に小説のことをぼーっと考えていたら、流れ込んでいた水が流れてこなくなり、まんまキスの状態となっていることに気がついた。
一瞬離されたと思ったら、角度を変えて唇を合わせてくる。次の瞬間、舌が入り込んできて自分の舌に絡められた。
「っ……ンンっ!」
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