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舌が絡んだとき、何かヒヤリとする物が押し付けられるように入れられた。
「どうだ? ミンティマ」
「はい――?」
「熱が高いから、口の中も熱いだろ。だからオマケに、ミンティマのスーパークール味を突っ込んでやったんだ」
それってわざわざ口移ししなくても、手で渡してくれたらいい物なのでは?
「……何かホントいろいろお気遣い、ありがとうございます」
もしかして、この人に狙われてるのかな? この身なりのお陰で昔から変な人に絡まれてるせいか、どうもイヤな予感しかしない。
でも行き倒れていた僕を、親切に病院まで運んでくれた。だからこの桃瀬さんは、大丈夫な人かな――
「あのさ」
「は、はい?」
ビクビクッ、迫られたらどうしよう。断らなきゃダメなのが分かるのに、この人から何だか目が離せない。
「おまえが持ってた、大きな封筒。緑泉社のライトノベル応募の原稿が入ってるヤツ」
「はい、明日が締め切りなんです。速達で出そうと思ってたところで、具合が悪くなってしまって」
「それ、さ。ウチでやってるコンテストに応募しないか?」
背広のポケットからすっと名刺を取り出し、両手で手渡してくれた。
「ジュエリーノベルの編集者さんだったんですか」
ちょっと前に雑誌がリニューアルされた、勢いのある出版社だった。
桃瀬 郁也さん――浅黒い肌に、桃色が映えそうな男らしい名前だな。
心の中でコッソリ、感想を述べていると。
「俺、人を見た目で判断できるんだ。おまえの顔はきっと、面白いものが書けるツラだ」
「はあ?」
何だか胡散臭い。作品を読んでいないのに、こんな風に断言しちゃって。
「だからこの作品、ウチのコンテストに出せ。どうせ緑泉社の締め切りを落としちまうんだし」
「でも――」
「おまえが今、これを郵便局に出しに行ってくれと俺に頼めば、絶対に間に合うがな」
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