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パルフェが大好きっ!
――と、ティルアがアスティスに言ってからというもの、彼の公務が空いた午後は二人でコッソリ外套を被ってカフェと出掛けるようになった。
初めこそ慎ましく外套を被ってコソコソと隅っこのテーブルで逃げるようにして過ごしていた。
しかし何度も回数を重ね、常連扱いとなると、店員らは王室御用達との案内をでかでかと宣伝するようになり、それにともなって人の入りも爆発的に増えるようになった。
「アスティス、あーん」
「……あ、あのティルア……」
口の回りいっぱいに生クリームをくっつけ、幸せに緋色の瞳をキラキラさせるティルアがクリームを掬ったスプーンをアスティスへと近付けてくる。
アスティスはというと、周囲の目が気になって仕方がない。
一見、自然なふりをするテーブル客がティルアの声でピクッと動きを止めたのをアスティスは見逃さなかった。
“ ティルア、あの、外でこういうことをするのはやめないか? ”
これが言えたらどんなに気が楽になることか。
「アスティスにあげる!」
眩しい笑顔でそう言いながら差し出してくるスプーンを拒むことなどアスティスにはできなかった。
「おいしい? ねえ、おいしい?」
被ったままの紺の外套の下、整った唇が咀嚼する。
ティルアの瞳は、見事なまでにキラッキラ。
いつものアスティスならば、かわいいっ!とぎゅっと抱き締めるシーンなのだが。
周囲の目が気になって仕方がない。
こう見えて、アスティスはこの国の国王である。したがって、威厳というものが大事になってくる。
ついた頬杖に額を乗せ、アスティスは盛大なため息をついた。
「……うう、アスティス、もしかして、迷惑だった……?
仕方なしについてきてくれてる?
今度からは私一人で来た方が――」
「!!
だめだ、それは絶対にだめ。
君を一人で来させなどしたら、変な虫がつく。
絶対にだめだ」
「虫……?」
首をちょこんとかしげながら、全く何も分からない純粋王妃はじっと考え込んでいる。
「カフェテーブルから植え込みまで結構距離があるし……虫は大丈夫だと思うよ。
それに、虫刺されくらいラズベリアではよく――――」
「その虫じゃなくて」
「へぇ、王様と王妃がこんなところでデートをしてるなんてね」
聞き覚えのある声はティルアの後方から……。
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