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動きを止めたティルアの目線は再度アスティスへと向けられる。
期待に満ちた眼差しをアスティスはにっこり笑顔で迎え入れる。
内心は心底安堵して、ほっと溜め息をついていた。
「わあ、嬉しい! ありがとう、アスティス!!
こんな美味しそうなの、一口も貰っちゃったらラサヴェルに申し訳ないなぁって思ってたんだ」
ふわぁと微笑むルビーの眼差しに気をよくしたアスティスはすぐにも店員を呼びつける。
キラキラしながら祈る手つきで、オーダーの様子をじっと見守るティルア。
「……ふふ、余裕ないなぁ」
澄まし顔でそのさまを眺めながら、ラサヴェルはディンブラティーを優雅に啜る。かちゃりと置いたティーカップからは薔薇に似た香りが漂ってくる。
「うるさい、何とでも言え」
「ねえ、ラサヴェル、紅茶っておいしい?
一度飲んだことがあるけど、苦かったよ?
……うう、アスティスのコーヒーよりはずっとマシだったけど」
そう言うティルアの前には、そろそろ空っぽになるオレンジジュースのグラスが置かれている。
タルト待ちのティルアはストローに手を伸ばした。
「ふふ、ティルアはまだ紅茶の楽しみ方を知らないんだね。
紅茶と一言でいっても、様々な種類や等級があるんだ。
何もストレートで飲む必要もないし」
「ラサヴェル、なんかすごい!
じゃあ、私でもおいしく飲める紅茶ってあるかなあ?
アスティスに聞いても、ちっとも教えてくれないんだ」
「…………!!」
話題はお供のドリンクへと発展する。一生懸命説明しようとするティルアとそれを甘く微笑みながら見守るラサヴェルと――アスティスは奥歯をぎりりと噛み締めた。
教えてやらないわけではない、アスティスが知らないのだ。
ティルアの前では何でも知っている風を装い通してきた分、このショックは大きかった。
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