中世のデートは難しい……

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 ラサヴェルが椅子を立つ。  座るティルアの身体を影が覆う。  蠱惑的な白い肌、伸びる指先がふっとティルアの唇に触れる。  ラサヴェルは指先にたっぷりついたフィリングを口に含ませ、妖艶に笑った。 「ごちそうさま」  ティルアの手元からポロッ、とシルバーフォークが転がり落ちた。  ボフン!  顔全体を真っ赤なチェリーのように赤くさせたティルアの口がパクパクと動いている。  目線はラサヴェルが口に含ませた指に集中する。気付いたラサヴェルが唇から指を抜いた。  綺麗な形の爪にうっすらと照り浮かぶぬらりとした光から逃げるようにして、ティルアは慌ててロイヤルミルクティーに口をつける。 「ラサヴェル兄さん、俺の妻に手を出さないで貰えないか」 「手を出す? 何のこと?」  何事もなかったようにラサヴェルはタルトを口に運び、紅茶を啜った。   「ティルアに触れてもいいのは、俺だけだ。たとえ兄さんあってもそれは許せない」 「ふーん、いささか過保護すぎやしないかい?  あまり束縛しすぎると女性は離れていくものだよ、アスティス」  優雅にタルトを口に運ぶラサヴェルは口元に笑みを張り付かせる。 「不特定多数の女性に手を出す兄さんこそ、もっと真面目に一人の女性と向き合うべきだ」  金と銀の不穏な空気に、ティルアはティーカップをごくごく言わせながら双方を目で追う。  美味しかったタルトもなくなってしまい、じっと二人を眺める他なくなったティルアはラサヴェルのトレイへと目を向ける。  淡雪のようなシュガーパウダーがかけられたカカオ風味のクグロフを前にごくりと喉を鳴らす。 「それならアスティスはもっと余裕を見せるべきだよ。僕が入ってきた時の顔はなかったよ」 「何を冗談を……!  ラサヴェル兄さん相手に余裕などあるものか」 「ふふ、それは光栄だね」  ラサヴェルがトレイをサッとどける。  勿論、視線はアスティスへと向けられたまま。 「あうっ!」  横から伸びてきたティルアの手が空を切る。 「ティルア、順番が違うでしょ。  人から物を貰いたい時にはきちんとおねだりしないと貰えないよ」  これにはアスティスもはぁ、と溜め息をつくほかなかった。  すぐにカフェに飽きないようにと少しずつ食べさせようとしていたことがどうやら裏目に出たらしい。  ティルアには目の前のお菓子しか映っていない。
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