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「………………」
ティルアはガレットの食べかけを皿に置いて困り顔になる。
「紅茶だって、様々な茶葉を取り揃えてある。
なんなら、美味しい注ぎ方も教えてあげよう」
「…………でも、そこにはアスティスがいない」
ティルアはしゅんと頭を垂れた。
ラサヴェルはティルアの頭をくしゃっと撫でる。
「ふふ、そうだね。
分かっているじゃないか。
じゃあ早く戻って、アスティスを追い掛けてやればいい。
アスティスの次の休みはいつになる?
しばらくは一緒に過ごせないんだろう?
僕はまだ少しセルエリアに滞在するからね、アスティスがいない時にでも来るといい」
「!! …………うん!」
困り顔が一転、曇りなどないクリアな青空に変わる。
ティルアは頬を愛らしいピンク色に染めて、席を立ち上がり、一目散に出口へと駆けていった。
見送る背中が見えなくなり、ラサヴェルは皿にぽつんと残された食べかけのガレットを手に取った。
口に含むと、バターの香味と甘さ、仄かな岩塩の味が口に広がる。
「…………甘い……」
来て欲しかった、いや、来なくてよかった――本当はどっちなのだろう。
ラサヴェルの心の天秤は不安定に揺れる。
――本当は。
二人がカフェに入ったところを見てしまった。
どうも整理をつけたはずの心がまだついて行かず、自然と足を向けてしまっていた。
ティルアと二人で過ごした日々は数えても、たったの数日。
アスティスとティルアが重ねてきた日々は浅くとも、それ以上の絆があった。
記憶が戻ってしまえば、ラサヴェルとの思い出は、ラサヴェルへの想いは、過去のものとして書き換えられてしまうだろうことも理解していた。
大聖堂に誘ったのは、もしかしたら、ティルアがまたラサヴェルの元へと戻ってきてくれるのではないか――
そんな思いが心のどこかにあった。
「……不特定多数、君は違った。
あーあ、残念。
……逃げられちゃったな」
ティーソーサーの下に置かれた路銀を手に、ラサヴェルは席を立ち上がった。
中世のデートは難しい/END
次はー、ラサヴェルとのー、どっえすー…………
これの続きみたいな扱いになります。
げほっげほっ!
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