で、結局部屋にお邪魔しました。

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 今日からの二日間、アスティスは泊まりでアスラーンへ周辺国との会議に向かうと告げられた。  先日のカフェでの一幕をアスティスに話したところ、聖徒がいる昼間の時間帯であれば大聖堂へ向かってもいいとの許しが出た。 「ラサヴェル兄さんに悪かったと伝えてくれ」  何故だかそう言ってティルアの背を押したアスティスの言葉に首を傾げたものの、ティルアとしては食べ損ねたお菓子のことで頭がいっぱいになっていた。  さすがに手ぶらでは申し訳ないと思うところがあり、手土産も用意して。  予想以上に準備に手間取ってしまったティルアは手土産の袋をぶら下げ、小走りに駆ける。  時間は昼前、午前の祈りの時間ももうじき終わる頃合い。  ラサヴェルが母の形見と見せてくれたように、ティルアもまた、ラサヴェルに見せてあげようと思った。  ずっとしまい込んでいたベビーピンクのシフォンドレスを身にするティルアの心は晴れやかだった。  念のため生地を保護するために白地の外套を羽織る。  ティルアが大聖堂内部へと滑り込んだのは、神勅の読み上げも終わりに差し掛かった頃合。  最後尾の長椅子へと腰を下ろしたティルアは荷から自分用の教典を手に取った。  ほどなくし、午前の祈りが閉会され、人が疎らになってくる。  閉会後も司祭らに直接話をしていく者の姿がいくつもみられる。  パイプオルガンのスツールに腰を下ろしたままのラサヴェルにも例外なく、むしろ親しげな様子さえあった。 「ラサヴェル様……、その、私にオ、オルガンを教えてください」 「オルガンをですか?」  何故だか聞いてはいけない様な気がして、ティルアはさっと柱の影に隠れた。 「すみません、オルガンは人に教えるつもりはありません」 「…………そうですか、残念です」  柱の影に立っていたティルアは、なぜか自分が安堵していることに気付いた。  女性が去ったことを確認し、ティルアは柱から身を起こした。 「…………あ」  気づけば大聖堂のフロアには、ティルア一人しかいなくなっていた。  他の司祭らもそれぞれがそそくさと休憩に出掛けてしまっていた。  パイプオルガンに座っていたラサヴェルが急に立ち上がり、ティルアの方へと振り返った。
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