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「ティルア……!?」
表情がいつもとまるで違っていた。
白の教皇帽、金糸をあしらったクロークに身を包むラサヴェルはまるでずっと離れていた恋人が戻ってきたような切なさが滲んでいた。
ティルアの心がずきりと痛む。
一呼吸置いて、ティルアは白の外套のフードを外した。
「ラサヴェル、こんにちは。
先日のお礼に来たの……」
「……………………あ、うん……そうか。
よく来たね、ティルア。
ふふ、アスティスがよく君を一人で向かわせてくれたね」
すぐにも仮面が掛けられる。
張り付けられる不敵な笑みにはさっき一瞬見た儚さは一切失われていた。
「あ、うん、アスティスは今日からお泊まりでアスラーンで公務があるから。
アスティスから伝言で『すまなかった』って伝えてくれ、って」
「すまなかった……ね。
ふふ、そこまで安心されても困るのだけれど。
なら、ティルアは今日は一人なんだね。
先日言っていたように珍しいお菓子を出そうか。紅茶も淹れてあげるよ。
先日、ダージリンのゴールデンティップが手に入ったんだ」
そこまで話が出てようやくティルアはほっとしたような笑顔になる。
「わぁ、楽しみ!
えっとね、ここにお土産があるの。
冷たい紅茶でもたちどころに甘くなるお砂糖を溶かしたお水をうーーんと煮詰めたやつなんだって。
交易品だってアスティスが言ってた」
「へぇ、珍しいね。
後で試してみようか」
受け取ったラサヴェルは袋を腕にかけ、逆側の手をティルアへと、差し出した。
「ちょうど昼だし、僕も少し時間が取れる。
一緒に行こう、ティルア」
ティルアはラサヴェルの手を取る。
ひんやり冷たい手に驚くも、そういえば彼の手は、肌は冷たかったと記憶が教えてくる。
「…………っ」
身体を走り抜けるある記憶。
彼の切ない告白を思い出す。
「どうしたの、ティルア」
「な、何でもない……」
顔が熱くなる。
それは、忘れなければならない記憶の欠片。
そろりと上を向く。
プラチナの輝きとインディゴブルー。
いつもと変わらない、変わってはいけない。
きっと彼が変わってしまったら、仮面を剥がしてしまったのなら――
ティルアは拒める自信がなかった。
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