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みんなの自己紹介も終わり、三斉流先生の『今日はこれにて解散』って合図があるやいなや…
皆それぞれに蜘蛛の子を散らしたかのように散り散りになった。
(は…はやい)
明らかに遅れを取ったと焦った俺は、カバンを持つと教室の隅の席でもたついているヤツを見つけた。
(よかった。アイツもか…)
顔を上げたソイツは俺に気づき『みんな早いなあ』と苦笑した。
「先生の合図であっという間だったからな。気づいたら回りがいなかったよ」
「俺もや。横向いとる間に終わっとったわ。ハッとしたら回りの皆おらへん。何をそんな慌てとんか知らんけど、クソ忙しいてかなんわ」
(関西弁…かな?)
背は高そうで肩は張っているがスラリとしている。
切れ長の目とやけに整い性格がキツそうに見える顔が、普段の俺ならきっと声をかけづらいだろう。
だが柔らかな口調と黒縁眼鏡で少しとぼけたようなところが、今はとても親しみを感じる。
「なあ、自分…えっと…」
「瀬戸…瀬戸典孝」
「典孝か。俺は和久田徹平(わくた てっぺい)や。徹平でええよ。よろしくな」
眼鏡の奥の切れ長の目がニッコリ笑った。
久しぶりに(朝から濃かったから)、普通の年相応の人間に出会えた気がした。
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